恋敵と書いてライバルと読む……?

6/60

471人が本棚に入れています
本棚に追加
/123ページ
「……ふぅ、澪、最近こんな時間によく起きてくるよね、まだ四歳なのに」 「澪ちゃんは、最近私と同じタイミングで寝るんです。それまで、元気に走り回ってますよ、知りませんでした?」  知るはずもない。恵一は、いつもこの時間に一度家を出て、とある場所にある花畑に行くのだから。 「っ! しまった! ちょっと出かけてくる!」  突然何かを思い出したように、恵一は家を飛び出していった。 「にぃさま、いきなりすぎて状況がつかめませんわ……。などと言ったところで、にぃさまはもう出て行ってしまったわけですけど。……私、誰に話してるんでしょうね? ……なぜ、こんなことを考えてしまったのでしょうね? 独り言に決まっています……」  ぶつぶつと一人話しているのを聞いたものはおそらく誰もいなかっただろう。里奈は若干顔を赤らめながらキッチンに向かって言った。片付けをすべて終わらせるために。 「ハッ……ハッ……ハッ……」  恵一は走っていた。別に急がなければいけない用事は無かった。むしろ、毎日行くだけの意味が無かった。そう、無いはずだった。数日前までは。  恵一が今向かっているのはとある丘だった。そこは恵一の育てた花で一杯になった花畑が存在していた。だが、真の目的はそこではなかった。とある日に迷い込んできたとあるやつが、可愛くて可愛くてしかたなくなってしまった。 「ネコ子、大丈夫かな? 腹すかして泣いてないかな?」  などと不安になっていた。  そう、そこに来たのは一匹の黒ネコだった。特別きれいとは言えず、特別元気と言えなかったそいつの首には、拾ってください。という小さなタグがつけられた薄汚れた首輪がつけられていた。  明らかな捨て猫だった。
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!

471人が本棚に入れています
本棚に追加