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ネコの心配がなくなって安心した矢先に、タマサブロウは葉音の手を離れ、恵一のポケットからはみ出ていたのであろうスルメイカを素早く奪い取って行った。
「あ、タマサブロウ、お前……」
「お腹、空いてたんだよ、多分。さっきからぐぅぐぅお腹、なってたよ?」
葉音がそう言うと、可愛くきゅるきゅるという音が、葉音の腹辺りから聞こえてきた。おそらく、タマサブロウの腹の音ではないだろう。即ち、
「葉音ちゃん、おなか空いてる?」
「うん、葉音、おなかぺこぺこ……。お晩食、食べ損ねたー」
ぐすん、と泣く葉音は実に可愛く、守ってあげたくなってしまうような、そんな雰囲気を醸し出している。その可愛さは学校でも一・二を争うほどで、告白された回数は数知れず。
しかし、そのすべてを好きな人がいるから。の一言でバッサリ斬っていっているらしい。故に、ついた呼び名が『心の通り魔』である。この名前は、某有名怪盗が、一国の姫の心を奪っていったあの話から引っ張ってきているらしい。……とっつぁ~ん。とか言ってそうな、彼である。
実は他にも、『純粋な魅力(Pure innocence)』とも呼ばれているらしい。こちらは所以どころか意味もわからなければ、日本語部分と英訳部分の不一致性という疑問点も残るのだが、学校で付くようなあだ名など、しょせんはその程度だろう。
と、まぁ、そんな可愛い子を男として放っておけるはずもなく、恵一は葉音を自宅に呼び、何かを食べさせてあげることにした。
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