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「……なんだ、これ? めちゃくちゃ上手じゃないか! 裏に名前まで書いてある……」
その言葉に少女は空から目を外し、声がする方へ目を向けた。
そこには、一人の少年が居た。少年はスケッチブックのページを一枚、また一枚と捲って、全てのページを確認している。風景画、人物画、沢山の絵が描かれたスケッチブックをゆっくりと、じっくりと見ている。
「恵一……」
少女からふと言葉が溢れた。特別な感情を抱いているような人ではない。だが、隣のクラスで、本が好きで花が好き。という程度のことは知っていた。そんな少年の顔を、物陰から眺めていた。
久しく見ていなかった顔は、何一つ変わった様子は無かった。
髪は黒く、一切整えられていない。ボサボサ。その表現が妥当だろうか。耳までかかるその髪は、邪魔なのではないだろうかとさえ思わせてくれる。目にも髪がかかっているが、覗かせる瞳は黒く、日本人のそれに間違いはないだろう。
「アリエス・ローレライ……どこかで聞いたことある、名前なんだけどな?」
そんな少年は、スケッチブックを見終わると、裏に書かれた名前を見て思考した。
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