死にたがりの少女

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「それ、私のスケッチブックなんだけど」 「……あ、アリエスさん!? 久しぶりだね、俺のこと覚えてる?」  少年は、あわててそんな事を言った。 「恵一は私のこと、忘れてたよね」  少女は、アリエスは恵一と呼ばれた少年に冷たく言った。まるで怒りを顕にしているように、それでいて自分の存在を知らしめるように。 「お、覚えてたよ? 名前では少し気付けなかったけど。で、でも、アリエスさんが、こんなところにいるなんて驚いたな。ここの鍵は、俺しか持ってないと思ってたからね」 「忘れてたんだ……あんなに濃密な夜を過ごしておきながら」 「はい? いやいや、濃密な夜を送った記憶はございませぬぞ? 姫。俺とアリエスさんは、一度この屋上であっただけじゃないか。しかも俺、途中で寝ちゃったし、起きたらアリエスさん居なかったし。夜だったけど!」  はぁ、と、アリエスはため息をついた。アリエスの言っていることに間違いは無かった。だからといって、恵一が嘘をついているわけではない。 「恵一はあんなに私を求めてきたのに、何も覚えてないって言うんだ」 「アリエスさん? 俺は、神に誓って何もしていないよ? あの夜は、俺は獅子座流星群を見に夜に学校に潜り込んで、アリエスさんに会ったけど、何もしてない、よね?」  そう、たしかに、初めてあった夜、恵一はアリエスの隣で爆睡していた。そして、重力に逆らえず、恵一の頭は、アリエスの太腿へと落ちていったのだ。傍から見れば、それは膝枕という行為そのものだっただろう。 「恵一は、私の絶対領域に、これでもかって言うくらい頭を捻じ込ませて「ませんよね、絶対に」」  自分の言葉を不意に遮られたアリエスは、むすっとして続けた。
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