旅の記憶

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「あ~痛ててて……まったく最近の若者というやつは……」 長老は今できたばかりの傷を薬草で消毒している。 「まだ傷を増やしたいんですか?」 俺は鉄の棒を持ちながら村長に近づく。 「あ、いや、別にいいんじゃよ?若者はそんなもんなんじゃから……」 村長は怯えるように後ずさるし俺から離れていく。 さらに俺は追い撃ちをかけようとしたが、母さんに止められた。 「もうやめなさい、ローラン。それより村長から大事な話があるのよ」 村を燃やした事より重大な話などあるのだろうか? そうは思ったが口には出さなかった。 「それで、なんなんですか、大事な話って」 俺に追撃されぬよう、かなり遠くにいる村長に苛々した口調で聞いた。 「……村長を恐れず傷つけるその勇気、やはり君にぴったりかもしれないな」 村長が何かを言い出した。 何がぴったりなのかさっぱりわからない。 「やはりローランで決まりなんですか?」 それに母さんも事情を知った様子で聞く。 「ウム、今の出来事で決定した」 会話は進むがなんのことか本当にわからない。 「……なんの話ですか?」 俺は耐え切れずに聞いた。 「おめでとう、君は今から勇者だ」 「頑張ってね、勇者ローラン!」 「は?」 火事を起こした時から薄々感じていたが、村長はボケが始まっているようだ。 俺が勇者になるだとアホとしか思えない発言をしている。 夢を見るのも大概にして欲しい。 「この村を潰した悪魔の親玉、魔王を倒しにいくんじゃ!!」 村長は俺の驚きを無視し話を紡ぐ。 「いや、悪魔じゃなくてあんたが原因だろ!?しかもなんで俺に決定したんだよ!?」 「君の母親が唯一、勇者として息子を旅に出すこと了解を出してくれたのでな」 俺は村長の一言が信じられず母親の顔を凝視した。 「母さんが!?なんで!?」 「ごめんなさい……洗剤一年分の誘惑には勝てなかったのよ」 そういう母親の後ろには大量の洗剤の箱が置いてある。 「俺の価値は洗剤一年分!?」 「ま、そういうことで君が村を代表して村を出るんじゃ。とりあえず魔王倒すまで村には帰ってこれないから」 そして、その言葉が終わると同時に現れた筋肉質な村の大工に運ばれ、俺は木の棒と鍋の蓋と共に村の外に放り出された。
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