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そう言った恵里菜は強気で勝気ないつもの恵里菜とは違うかわいい女の子みたいだった。
こんな顔するんだ…
俺はまたひとつ恵里菜の意外な一面を見つけて戸惑っていた。
恵里菜の作った料理を俺は無心にほおばった。
見た目に劣らない味に食欲が増して、久々に満たされた気がしていた。
「ごちそうさま。かたずけは俺がやるから恵里菜座っといて。」
「なに言ってんの、大丈夫。あたしがやるから一平くんはテレビでも見てて。」
「じゃあ一緒にかたずけよ。
もうこんな時間だし…」
「………。」
言ってしまった後で、恵里菜の表情をとっさにうかがった。
もう遅いなんて時間のことを言えば、まるで俺が恵里菜の旦那さんの事を気づかっているような響きに聞こえた気がしたからだ。
旦那が待っているんだから、早く帰ったほうがいいという意味に恵里菜には聞こえただろうか…。
「一平くん…、あたしね…」
キッチンに食べ終わった食器をさげながら恵里菜が言った。
「ん……?」
「あたし結婚してるんだけどさ…でも、一平くんの事特別に思ってる…。」
「………」
「既婚者のあたしにそんな事言われても…うれしくないだろうけど……。あたしすきだとかそんなこと…言える立場じゃないけど…でもね…」
「………。」
「あの夜、一平くんが彼女の事追いかけたいって思ってるのがあからさまに伝わってきて、正直あの子に嫉妬した。」
「え…?」
「あたしは病気でもないし…弱くもない…、だから、追いかければなんてあの時強気で言ったけど、本心じゃなかった。」
「……。」
「追いかけてほしくなかった。」
恵里菜はキッチンに立ったまま俺に背を向けた。
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