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夜の沈黙が少しだけ気まずい。
一平はもう疲れたかな・・・・。
こんなあたしに疲れたかな・・・。
一平は健康な一人の男だ。
きっと、病院の外に出れば、色々な誘惑が待っている。
一平がそばにいると、
ここにいない一平のことばかり想像してしまう。
毎日、誰といるんだろう・・・。
毎日、なにしてるんだろう・・・。
なんでメールの返信が遅いんだろう・・・。
病院のベッドの上で、そんな事を想像するのは
とても苦しい。
確かめにいくことも出来ない。
もしも一平が私を裏切ったとしても、
果たしてそれが、裏切りになるのかさえも
今は分からなかった。
抱きたい時に、抱けもしない彼女がいても、
一平は辛いだけなんじゃないか?
裏切られたところで、私は一平をせめることは出来ない・・・。
もう半年も、病院に閉じ込められたままのあたしに
一平を束縛することは出来ない・・・。
週に一度の安らぎの時間に、
ふとそんな事を考える。
さらにそれが、二人に沈黙を与えた。
「寝たの?」
「おきてるよ・・・。
ねぇ、一平?」
「ん?」
「裏技ってなんなの?」
「まだそんなこと考えてたの?あれだよ、彼女が情緒不安定になってて、
ほっとくとまずいんで、今日は側にいさせて下さいって言ったんだ。」
「それじゃあ私、看護婦さん達の前で演技しなきゃね。」
「どんな演技?」
「情緒不安定な演技。」
「おい、そうでも言わないと、完全看護とか言われて
付き添い許可取れないんだから仕方ないだろ。」
「うん・・・、分かってる。」
「もう寝ろよ。体きついだろ?」
「・・・・・。」
眠ったら朝が来る。
そんなの嫌だ・・・・。
一平とこうやってよりそってたい。
涙が、沢山溢れて止まらない。
情緒不安定のふりをしなくても、十分情緒不安定だった。
「点滴抜きたい・・・・・。」
「え?」
「点・・・・・・滴・・・・
・・・ぬきたいよ・・・・・・。」
気づけば泣きながら、ありえない最上級のわがままを一平にぶつけていた。
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