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聴診器で先生が胸の音を聞いていた。
「ねえ、先生…。」
「ん?どうした?」
聴診器を外した先生は
意外そうな顔で私をみていた。
自分から医者へ話しかけることなんて今までなかったからだ。
「退院できないの?」
天井を見たままあたしは聞いた。
「今はまだ無理だろ…」
「じゃあ外泊は?」
「外泊?点滴つないだまんま外泊できると思うか?」
「一時間だけでもいい…
だめなの?」
「どっか…行きたい場所でもあるのか?」
「……」
「外泊って言っても、
今の状態じゃ難しいよ…、
許可出してあげたいけど、まだ無理だよ。」
「先生役立たずだね。」
「……。」
「あたしは先生になんか頼んだことなんてないのに、たったひとつのお願いも聞いてくれないの?
外泊できないなら、
治療はしない。」
「おいおい…、そんなわがまま言うなよ…。」
「会いたい人に会いに行きたいのがどうしてわがままなのよっ!」
何も分かってくれない…。
先生に怒鳴ったところで
現状が変わるわけでもなかった。一平に会えない辛さや
焦りがあたしを追いこんでいた。
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