失う時

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あの医者に気をとられて、肝心な事を忘れていた。 このドアを開けて、俺はあいつにゆうべの事を説明しなければならない… 「安定剤で眠っている…」 そう言ったあの医者の言葉がよみがえった。入っていきなり怒鳴られずすむ、好都合かもしれないと一瞬卑怯なことを考えてしまった。 ゆっくりとドアを開けると、部屋の電気は消されていて、ベッドで眠る彼女が見えた。 近づき寝顔を確認すると、まだ眠りが深いようで俺に気付く気配はない。 椅子に腰をかけ、布団の上の手を優しく握った。 少し熱があるのか、熱った手は、まだ俺の手を握り返してはこない。 夢見てるのかな… 寝顔を見ながら、後悔が押しよせてきた。 こんな体でも…、 俺に会いに来てくれたのに… 俺は彼女の手に顔を埋めた。 どうか…許して欲しい… そう願いながら、彼女の手を強く握っていた。
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