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俺は恵里菜を呼び止めてあの日のことをもう一度謝ろうと思ったが、せっかく恵里菜とこうして普通にしていられるのにわざわざ蒸し返す必要もないかと思い直した。
俺があの日の事が気になって考えこんでいるからかどうかは分からなかったが、恵里菜は無言のままだった。
アパートに着いても二人だけの沈黙がやけに気まずい…。
「包丁…どこにあるの?」
恵里菜がキッチンから振り返り俺を見ていた。
「あ……どこだっけな…たしかその流し台の下にあったはずだけど…。」
俺は立ち上がり、恵里菜が立つ流し台へ行き調理器具を探した。
入院する前、彼女が「ちゃんと自炊しなきゃだめだよ」と言って買ってくれた調理器具が、新品のまま流し台の下にあった。
なにもしらない恵里菜は彼女が選んだ調理器具で料理をしようとしている。
なんだか複雑な気分になっていた。
「これ使って。まだ新品で使ったことないやつだけど…。」
「うん…。」
恵里菜は何かを察したのか声のトーンがいつもより低かった。
俺はベッドに座って、
手際よく料理をしている恵里菜の後ろ姿を眺めていた。そうしているうちに、なんだか妙にたまらなくなった。
あの日の夜、俺の上に股がっている恵里菜を思い出してしまう。
だめだ…
何考えてんだろ…。
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