Ep2.黒い本と叔父

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  日曜日。 8時過ぎに起きた覇蘭は掃除や洗濯を午前中に終わらせ、昼食後に国立図書館へ向かった。 特に読みたい物があった訳ではなかったので、何か良いものは無いかと歩き回っていると、ある本に目が止まる。 広い図書館の1番奥に位置する大きな棚、そして人の目に付きにくい1番下の段の左側。 不規則な厚さ、高さの本がぎっしり並ぶ中でひっそりと存在する、ただ真っ黒な背表紙。 手にとって見てみると、黒い革の表紙カバーがついた、大分古そうな本だ。 開いて見るが、中はどのページも白紙で何も書かれていない。 かなり古いだろうが、表紙や紙は丈夫で立派な物だ。一体何だ……? まぁ、どうでもいいか……。 そう思い本を棚に戻しかけたが、ふと気になった。 何故俺はこれが目に止まった? 確かに黒の背表紙など目に止まりやすいが、これは何かが違う……。 そういえば、覇蘭がこの本を手に取った時から、何人かが通り過ぎたり近くで立ち止まったりしているが、この本に目が止まった者は居ない。 まるで、覇蘭の手元は視界に入っているが、ただ視界にあるだけで、意識が向いていない、といった様子。 それを観察していた覇蘭は、まさかと思いながらもある考えに辿り着く。 注意がいかない? 気配が薄い……のか? ただの思い違いかもしれない。 だが一度そう考えたら気になって仕方がならなかったし、この本を手に取った自分が1番不思議だった。  
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