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剣劇の連続が、場に激しい重奏をもたらす。刃と刃がぶつかり合うたび金属音が響きそれが消えぬ間にまた新しい音が生まれる。
火花散り、刃は欠け、柄を持つ手は裂けて血を流し、踏み込む脚は疲れに震え、着る服も所々破れて落ち、速まる心臓の鼓動にあわせて呼吸も荒くなっていく。
二人の男が、そんな一瞬の気も抜けない戦いを繰り広げていた。もともとは綺麗だったであろう一室の中で、それは続く。それ以外はなにも見えない。なにも聞こえない。この空間の中では、この戦いこそが、世界のすべてだった。
「あんたは……本当にこれで良いってのか」
少年はその中で問う。真面目な眼で、今剣を交えている相手に。
「お前には解っていたはずだ。最初からこうなる運命だったということが」
しかし男は答える。愉しそうに、嬉しそうに。
「受け入れろ、この世界を」
やるべきことをすべて終えたあとのように清々しく。
「この俺を」
最高の悦びをみつけたときのように顔を綻ばせ。
「この戦いを!」
もはや目も見えていまいというのに、このまま走れば求めるものが手に入ると確信しているがごとく。
「これからの未来を!」
この瞬間を予知していたかのように。そして、それが他の何よりも重要であったのではないかと見えるほど。
「抗うな! せめてここでどちらかが果てるまで、楽しもうじゃないか!」
限界に耐える身体、朽ち果てゆく武器。だが心だけは、強く、在り続けている。
「……そうかよ。だったら俺も、容赦はしない」
この時を待っていたかのように。この一瞬のためだけに生きていたのではないかと思わせるほど。
「俺を……」
この戦いを、約束していたみたいに。気の合う友達のように、永遠の好敵手がごとく。
「俺たちを裏切ったことを」
背景など無用。観客など不要。『二人』だけの闘技場。最後の一撃のそのためだけに、そこは存在していた。
「後悔しろ」
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