壱・始之小戦

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 帝国、ギルラン。  大陸の中央に堂々と国土を構えるその国は、南北の天険と強大な軍事力で、平和を守り続けている。  帝都は栄華の極みを誇っている。清廉な水路にゴミ一つない道路、金は尽きることを知らない。人々は活気に溢れ、街には笑顔が満ちていた。  そんな帝都だけで一国が収まるほどの大国、総面積は大陸の土地という土地を欲しいままにしていた。  しかし、そこを見てみるとなだらかな丘にごうごうと流れる大河、果てには険しい山々と、おおよそ街と呼べる代物は見当たらない。勿論そこらに村は点在しているものの、それこそ森に隠れていたり、山の洞穴の中だったりして、到底人目にはつかないのだった。  尤も、そんなところに人が来ることなど、滅多にないわけなのだが。  そして、そのような村には帝都のような裕福さは無い。初めて来る者は皆一様に、その酷い有り様に絶句する。  金や物資の流通はとっくに絶たれているというのに、役人は税を取り立てに街を闊歩する。人は道端の草を貪り、パンの焼き方を忘れた台所は虫共の巣になっていた。  ――どうしてこんな目に。村に住む人々は、日々そればかり考えて生きていた。    
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