壱・始之小戦

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 帝都から南東、広い広野を抜けると、天を貫くかの如く雄大な木々が地を覆う、フレストフールと呼ばれる広葉樹林が見えてくる。  常人ならば、まず足を踏み入れないようなその場所に、村はあった。  年中、樹に遮られて陽光は浴びれず、作物は育たない。住人もひ弱そうな真っ白い肌をしている。そんな村だ。  暮らしにくいが、『隠れ住む』ということに関してはこれ以上のものはない。  だが、この唯一のメリットも、すでに打破されている。  そこでは、今まさにアランとマーシャと云う、二人の若者が、村を追い出されていた。とはいえ村の意向では無い。  二人とも年は十代後半、まだ幼さの残る顔つきである。  アランは不精して伸ばした黒髪を後ろで縛っている。小柄な体格は昔から変わっておらず、腰の曲がった老人をやっと背で追い抜いたくらい。透き通った碧眼が、宝石のように綺麗な色をしている。  マーシャは背中の真ん中程まで伸びた絹の様に細い、青い髪が特徴的で、風が吹けばさらりと揺れる。瞳はパッチリと開いていて明るい印象を受ける。  村には同年代の人間がいなかったので、二人は小さい頃からよく一緒に遊んだ幼馴染み、ということになる。置かれた境遇が似ているのも、その一因だろうか。 「すまんなぁ二人共。結局お前たちを助けることが出来なんだ……」  村長がしわがれた声で言う。 「いいよ、村長のせいじゃない」  アランが言った。  気休め程度の虚言と知りながらも、それしか思い浮かぶ善は存在しなかった。 「そうだよ。本当に悪いのは……」  今はもう、二人の目に純粋な青い輝きは無い。二人は復讐を決意した。
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