後悔先に立たず

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「ミラさん、アナタは十分に女性として魅力的ですよ。」 一般人にしては十分な知識を持っている。 現に、ボクが知らない知識も沢山知っている。 「…リオン、熱でもあるの?」 熱、『ニンゲン』が体調を崩した時になる症状。 確か、体内の抗体と病原菌が反応するさいに体温が上昇する状態だ。 ということは、今のボクには当て嵌まらない。 「違います。 今のボクにはその様な兆候は見られません」 何故そんなことを聞くのだろう? どうみても体調は良いと思うのだが。 「…アナタって本当に真面目なのね。 今のは冗談よ、からかっただけ。 気にしないで、でも、ぁりがとぅ」 『真面目』、『冗談』、つまりボクは今試されたのか? 分からないが、何か悔しい。 そして、何が『ありがとう』なんだろうか? 「にしても、リオンってこういう雑誌も読むのね。 何を勉強したかったのかなぁ?」 笑っている、けど、普段と笑い方が違う。 何かを含ませた様な、変な笑顔だ。 これも『からかわれている』可能性が高いな。 「別に、何だって良いじゃないですか? ミラさんこそ、こんな宛てもない旅の中で誰をオトス予定なんですか?」 どうだ? 今の対応はきっと『ニンゲン』っぽかったはずだ。 少しはボクも『ニンゲン』らしくなったんじゃないかな? 「だ、誰だって良いでしょ! 気分転換に髪形を変えたかっただけなの。 …別にオトスとかじゃないから」 意味不明だ。 『からかわれている』から『からかい』返したら怒られた。 何なんだ?今の対応は『ニンゲン』っぽくなかったのか? ボクが一人で考え込みかけた瞬間に、泣きそうなミラさんの言葉でボクは我に帰った。 「…オトシたい人はもういないから。 会いたくても会えないから。 だから、本当に意味はないの」 ボロボロと泣き始めた彼女を見て、ボクは何をしたら良いか分からずに頭が真っ白になった。 『嫌だよ、あなたが居ない未来なんて嫌! 何であなたが…』 何だ、今の感覚は? 唐突に浮かんだ不鮮明な映像と不透明な声。 でも、あの声は…。 透き通った繊細な声。 女性でも珍しい、中高域に特徴がある声。 高い声なのに、中域がしっかりしている。 こんなに特徴的な声は余り居ないのではないか? 間違いじゃないなら、今目の前で泣いている女性の声によく似ている。
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