ヴァンパイア・カイン

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私の名前はアベル。18世紀西欧のある屋敷の傭兵でした。19歳の時、葬儀の手伝いを終えた後の帰り道に私は出会いました。傷を負った長い黒髪の青年と。彼は血が足りなくて死んでしまうと言うので、とりあえず手当てをしようと私は彼を抱え、自宅にしている古いかつては村の教会だった小屋に連れていきました。 彼の傷は酷いもので、もうあまりもたないだろうと思い、傷を洗った後で布を巻き、血に濡れたブラウスを脱がせて私の服を着せました。彼が身に付けていた黒いマントをかけてやり、側に座りました。そして、目を閉じたままの彼は、こう囁いたのです。 「血を、くれないか……?」 彼は私の胸にある大きめのロザリオを見ていました。そして、最後の洒落ぐらい聞いてやろうと、出来る限り優しく微笑んで左手を差し出しました。すると彼は私の手首を掴むや否や噛みついたのです。彼の歯が食い込んで皮膚が切れていることを、痛みで知りました。左肩が痺れたような感覚がしました。指が動かない。手首から熱が広がっていき、私は息を切らしながらしかし何もできずにただ彼に血を吸われていました。 「ありがとう。」彼の吐息混じりの声がきこえました。長く思えたそのときが終わると彼はベッドに横たわり、私に血色のよくなった横顔を見せて目を閉じました。彼は右手で私の手首の傷を押さえていました。
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