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そこは、廃墟だった。
もうもうと埃が立ち込める古いビルの地下駐車場。
時折ミシリと軋んだ音がして、パラパラと破片が降ってくる。随分と老朽化が進んでいるビルだった。
夏も真中にもかかわらず、辺りには冷気が巡回している。
「……――ぶしっ!」
小さくくしゃみをして、睦月竜牙は目を眇めた。
反動でズレてしまった眼鏡を持ち上げ、意味もなく、砂埃でぱさぱさする長い前髪を掻き上げてみる。
――そうでもしていないと、押し寄せる死の恐怖から逃れられそうにないのだ。
「――どうして、俺まで」
小さく呟いた愚痴は誰にも聞かれたつもりはなかったのが、拳大のコンクリートの塊とともに返答がある。
『ごちゃごちゃ、言うんじゃない――!』
声は遠くからのものなのに、建物全体に反響して、思わず竜牙を飛び上がらせた。
「危っ、……姉さんっ!」
コンクリートを間一髪で避けて、抗議の叫びをあげる。
ず……ぅん……
竜牙の叫び声の余韻を断ち切って、重い響きが鼓膜を震わせた。
一瞬遅れて、砂埃を含んだ強風が足元を吹き抜ける。
「ね、姉さんっ!? 大丈夫なのか?」
心配げな要素満天の声音だったが、この場合の「大丈夫!?」は親愛なる姉に向けて――などでは勿論、ない。
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