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「私、榊原聖奈は、隣にいる沢宮修司の“許嫁”として、この学校に置けるスクールライフを満喫することを誓います! 以上!! 次、由夜っ!!」
間髪いれずに、聖奈は一歩後ろに控えていた由夜さんにマイクを向けた。
「はい。私、榊原由夜は、お二人のメイドとして、生涯仕えることをここに誓います!」
由夜さんは由夜さんで、満更でもない様子でとんでもないことをさらっと言いのけた。
そして今度は、俺に反論は許さぬと言わんばかりに、聖奈がマイクをこっちに突きつけてきた。
そしていまや全校生徒どころか、教職員やら来賓の皆さまやら保護者やらの視線が全て、俺に凝縮されている。
良かった、親が来てなくて。
でも何かしら痛い、痛いよ。
つか教員。止めなくていいのか。
「ほら、あんたも何か言いなさいよ?」
「お、俺?」
「当たり前でしょ。そうね……まぁ、私と同じようなこと言えばいいわ。“私、沢宮修司は、榊原聖奈を愛することを誓います”とか」
「いろんな過程ぶっとばして誓いのキス!?」
後ろで由夜さんがクスクス笑っているのが聞こえる。
そういや、この由夜さんも、意味の分からないメイド宣言してたんだよなぁ……分からん。この二人、1ミクロンも理解できん。
「誓いのキス……それ、いいかも」
「はぁ? 何を――」
いきなり。
黒髪美少女の可愛らしい顔が、物凄く近くまで迫っていた。
こんな時は、黙って目を閉じるのが作法だと聞いたことがある。
しかし今の俺には、目を閉じるという小さな行動に移る余裕すら、ない。
「……っ」
ただひたすらに柔らかな感触が唇いっぱいに広がる。
俺の脳ミソは、今何が起きているのかを理解してくれてはいるようだが、その対処法までは導きだしてはくれなかった。
何も出来ず、何もせず、ただ目を見開いて成されるがまま、俺はひたすら硬直していた。
「……会いたかった。6年前のあの日から、ずっとね」
不意に、ある記憶が蘇った。
星空の丘。
そういや、あの時も、俺は誰かとキスをして……ん? 6年前だと?
まさかこいつ、あの時の……女の子?
「修司、あの日の約束、果たして貰うわよ!」
「約束……?」
「言ったでしょ?」
そして。
「私のこと、お嫁にもらってくれるって!」
俺の、強制的に約束された“非日常”が今、こうして幕を開けたのだった。
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