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「へ、へぇ……由夜さんってメイドさんなんだ。じゃあ、聖奈ちゃんはどこかの……お姫さまなの?」
深く追及はしない、というのはあくまで俺の意思であって、他人の意思じゃない。
好奇心に負けて質問を投げ掛けたのは、他でもない、会長だった。
「えっ!? えっと、まぁ……そんなところ……ねぇ、由夜?」
「は、はい! そんなところ、ですっ!」
ギクリッ、という擬音が聞こえた気がした。
冷や汗を垂らしながら苦笑いを浮かべる聖奈と由夜さん。
なんでそこで挙動不審になるんだ、お二方。
怪しいな。ちょっと尋問でもすりゃ、洗いざらい吐いてしまいそうな勢いと言ってもいい。
「ふーん、そうだったんだ……えっと、由夜さん。これからよろしくね?」
会長は、何となく事情をつかめて満足げな表情を浮かべている。
由夜さんに笑顔と手のひらを差し出した。
「あ……は、はい、こちらこそ!」
緊張と不安が入り交じる面持ちで、由夜さんは差し出された千鶴会長の手を握った。
すると、ハッとした表情になったかと思えば、途端に満面の笑みをこぼしていた。
よくわからんが、とりあえず何かしら解決したらしい。
つーか会長……人の事は言えんけども、年下にさん付けってどうよ。
いや、気持ちはわかるよ? 由夜さん大人びてるし。
人間離れした雰囲気というか、外国人的な見た目からして近寄りがたい感じだし。
むしろ、上下関係的に由夜さんより聖奈がこんな雰囲気をもってるべきなんだよな。うん。
なんだろうね、このめちゃくちゃな人間関係。
そんなこんなで、本当はこの時間というのは教室で担任からいろいろな説明を受ける時間なのだが、俺達はその諸々すべてを会長から聞いた。
このまま教室に戻っても居づらいだろうからという、会長のありがたい配慮によるものだ。
後から知ったことなのだが、これは前例のない、非常に名誉(全校生徒が羨む)なことらしい。
何故、会長がここまでしてくれるのかは知らないが、多分お人好しなんだろう。
入学式にあんなことがあって、生徒の中で浮いてしまって。
それを放っておけないから、こうして気にかけてくれて。
本当に良い人。伊達に弟想いの姉をやってるわけじゃないんだって、思わずにはいられなかった。
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