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「どこって、昼飯買いに行くんだけど……」
このまま帰ったところで、我が家の冷蔵庫の中には何もない。
適当にスーパーで昼飯を調達してこようと思っていたのだが、どうやらこの美少女はそんな俺の素朴な心意気すら気に食わないらしい。
「なら、私も連れていきなさいよ」
「いや、連れて行けって言われてもな……ただの買い物だぞ?」
おもむろに陳列された惣菜を眺めたって、面白くもなんともないだろうに。
それに、昼飯なんて普通親が作り置きとかしてくれてるもんじゃないのか?
俺は……そういうのは良くわからんのだが。
「私はあんたの“許嫁”なんだから、将来の旦那の食生活を把握するのは当然の事でしょ?」
そうきたか……恥ずかしいことをさらっと言ってくれるじゃねぇか。
まぁ来るぶんには好きにしてくれて構わないけども。
そういうわけで今、俺・聖奈・由夜さんの三人で、最寄りのスーパーに向かっている。
先頭に俺、その後ろに聖奈と由夜さんがついて来る、という陣形だ。
変わった様子と言えば、誰も、何も話そうとしないところくらいだ。
空気が重いというわけじゃないけど、なんだか気まずい。
その上、何を喋ればいいかもわからない。
端から見ればさぞ奇妙な光景だっただろう。何か思案しているパッとしない男子の後ろに、黒髪と金髪の美少女。
黙々と歩を進めるそんな一行を、誰もが振り返ったはずだ。
今更ながら、なんか恥ずかしくなってしまった。
それにしても、許嫁か……。
ずっと思ってた事なんだが、この単語に対して俺はどんな反応をすればいいんだろう?
全校生徒の前で宣言してしまうくらいだ、あれが嘘ってことはまずない。
うぬぼれかもしれないが、聖奈は本気で俺の事を好いてくれているに違いない。
だからこそ分からない。
こいつがデレたところを今日一度も見てないのだ。
むしろずっとツンツンというか、サバサバしてると言ってもいい。
つまり、何が言いたいかと言えば、だ。
情けない話だが、こんな美少女にいろんな過程をぶっ飛ばして逆プロポーズされて、俺がいつまでも平静を保っていられるわけがないだろう?
スーパーまでは、まだ距離がある。
……とりあえず、どこかに腰を下ろしてゆっくり考えたい、なんてことを割と真面目に思っていた。
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