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さて、いい機会だ。そろそろ聞いてもいいだろう。
何をって? そりゃもちろん決まってるじゃないか。
会長も気にしてた、アレだよ。
「由夜さん……前から気になってたんですけど、その“姫様”って何ですか?」
これ。やっと言えたよ。
まさかとは思うけど、マジで聖奈がどこかの姫様だったりしたらシャレになんない。
もしかすると何か言いづらい事情でもあるんじゃないかと思ってなかなか切り出せなかったけど、もう限界。
まるで「聞いてくれ」と言わんばかりに由夜さんが“姫様”って連呼するんだもん。
「姫様……ですか?」
そういって、由夜さんは人差し指を下唇に当て、「んー……」と唸りながら青空を見上げている。
やがて考えがまとまったのか、笑顔で向き直ると、
「姫様は姫様です」
だそうだ。
全然わかんねぇよ。
でも可愛いから許す。
間近で向けられたら、思春期の男子なら誰でも勘違いしてしまいそうなくらい、屈託のない、純粋な笑顔。
いやはや、たまりませんな。
「……」
ふと、右側から視線を感じた。
「……」
少なくとも、好意は微塵も含まれてはいない。
痛い。力一杯槍で突かれるような、刺々しい視線だ。
「せ、聖奈……? どうしたんだ?」
「別に」
そう素っ気なく言葉を返すと、むすっとしたむくれ顔でそっぽを向いてしまう。
「ふん、何よ、由夜ばっかり見ちゃって……」
「ん? 今なんか言ったか?」
「何も」
何も、はないだろう。不機嫌が顔に出てるぞ。
「……あ」
まてよ。そうか、別にわざわざ由夜さんに聞かなくても良いんじゃないか。
ここにも、それを肯定してる奴がいることをすっかり忘れてた。
「なぁ聖奈、なんでお前、由夜さんに姫様なんて呼ばれてるんだ? お前本当にどこかの姫様だったりするのか?」
「う……そ、それは……」
なぜか言葉を濁す聖奈。まぁ普段の俺ならここで問い詰めたりはしないが、これは俺に無関係な話じゃない。
一応、俺にも知る義務がある。
食い下がるわけにはいかなかった。
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