8人が本棚に入れています
本棚に追加
旅人は言いました。
「綺麗。」
桔梗はうつ向きました。クシャクシャの花を見られたくなかったからです。
しかし旅人は桔梗をまっすぐに見つめて、また言いました。
「綺麗だね。」
桔梗には何が綺麗なのか分かりませんでした。小さな小さな真珠のような涙の事を言っているのか、それとも涙で出来た七色の虹の事を言っているのか。
旅人は、そんな桔梗の気持ちを見通したかの様に、優しく微笑みながらこう言いました。
「全てが綺麗。涙も虹もこの星も貴女も」
えっ?『この星が綺麗?…私が?綺麗?』
桔梗は少し混乱しました。
疲れて枯れかけの私が綺麗なはずはない。この人は何を言っているんだろう。桔梗には理解できませんでした。
この星だって、ただ土と空があるだけ…。
旅人は言いました。
「ここに座っていいかな?」
桔梗には断る理由はありません。
「どうぞ」
桔梗がそう言うと、旅人は桔梗の隣に座りました。
それから二人はしばらくの間、桔梗の涙と涙で出来た虹を眺めていました。
「ここにいるとホッとするなぁ。なんだか癒されるよ。」
旅人は言いました。
最初のコメントを投稿しよう!