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「もう一度確認しよう、君達が恐れる呪灰の症状について、この黒について、ちゃんと覚えているのかさ」
イヤな黒が俺を見る。
黒に写る俺が俺を見る。
合わせ鏡を目の前にしたような気色の悪い違和感がする。吐き気と痛みが程よく混ざって目の奧が熱く歪んでいる。そいつを無理に飲み込もうとして、喉がやけに強くなった。
「ただの人間が灰人となった場合の初期症状は主に三つだ。一つは過剰なまでの身体能力の上昇、ここで多くの人間は自分の死を予感する。そして二つ目は極度の興奮状態に陥っての錯乱を引き起こし、大暴れ、さらに感染を広げてくれる。そして沢山運動した後は勿論――――」
リュウジがここにきて今日一番の笑顔を見せた。ざらつく視線に生暖かな唾液を絡めたような声で、馳走を目の前にしたかのように微笑む。
まるで、そう――それは、
「――僕達は、とてもお腹が空いてしまうんだ」
ケダモノソノモノダ。
「それは身が捩れるほどの耐え難い空腹だ。それを君は想像できるかい? 鼓動が腹で暴れ、眼球が蠢き、止めどない唾液を抑えられないほどの餓えを感じ、それを呑み込んでも癒えない猛烈な乾きに喉を焼き焦がされ、巨大な穴が胸に空いたように虚ろとなっていく時の孤独感を……味わったことがあるかい?」
既視感キシカン既視感。
これは昨夜にもあった。
「ならそれは何で満たされる? 豊満に肥えた家畜の肉を頬張れば? 熟成された高級なワインを喉に流し込めば? 愛しい人間をベッドに沈めて思うがままに抱きしめれば? …………いいやいいや、違う違う――――違う」
いやに低く打つ心音だ。
この鼓動を知っている。
「それじゃ全然足りないんだよ……
足りない、
癒りない、
満りない、
消りない、
得りない、
タリナイ、
まったく足りないんだ……」
橋の上で感じた冷たさだ。
命を掌握された時の音だ。
「それじゃぁ確認だ、解りきっていることを聞くのだから心して答えてくれよ、もし間違った答えを出したら、そうだね……まずは右手の骨を先に砕くとしよう。いいよね?」
イイワケあるかよ。
イイワケなんてない。
だが、お構いなしにリュウジは質問を重ねた。
簡単質問だと微笑みながら――
「僕達の “好物” はなーんだ?」
そう、楽しげに言った。
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