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きっとそれは、誰にでもなれる姿
だが、そのせいで射命丸の胡散臭い新聞記事がにわかに真実味を帯びてしまったのも事実である。多くの凡庸な者にとって、実力とは内実よりも見た目のインパクトだ。群れをなす弱小妖怪を、紅い髪をなびかせながら右へ左へとなぎ倒してゆく美鈴の姿は、それを見る者の心に「実力者、紅美鈴」との印象を焼き付けたのであった。
珍しく大きな反響に、調子に乗った射命丸文は、続報と称し、先の報道に輪をかけて脚色の加えられた号外をばら撒いた。「私は真実を伝える」と語っていた射命丸と比べると、まるで別人のようだったが、美鈴が抗議すると、しれっとした顔で「断言はしてませんよ。あくまで疑問形ですから。ほら、『!?』ってつけてるでしょ?」などと応えた。反省の色は皆無であった。
ともあれ、そのように悪意の存在を疑ってしまいそうな報道のせいで、美鈴は実に多忙な日々を送るはめに陥ったのだった。これはそんなある日の物語である。
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