4/5
前へ
/7ページ
次へ
するとそこには、絵の具や土埃で汚れた男が立ちはだかっていた。 今まで彼女を庇う人間などいなかったので、その光景にただただ驚いていた。 街の人も同じだったようで、いつもは賑わっている大通りが、 一瞬、時が進むのを忘れたかのように静かになった。 沈黙を破ったのは、その男だった。 彼は少女の方を向き、彼女の手首をつかみ、こう言った。 「…やぁ、こんばんは、素敵なおちびさん。僕らはよく似ているね。」 彼女の瞳に、彼のくすんだ金色の癖っ毛と透き通った蒼い瞳が入り、とっさに思った。 ---ヒトヲ シンジテハ イケナイ---- 彼女はつかまれた手を強引に振りほどき、反対を向き、住み慣れた孤独へと全力で逃げた。 生まれて初めての優しさが、信じられなかったのだ。 しかし、男の方もめげることなく、毎日のように彼女の前に現れ続けた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加