第2章 by train

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3.車内 「タタン…タタン…タタン…」 眠気を誘うように一定のリズムを刻んでる。 本、新聞、ケータイ、MD…。同じ空間にいるのに人それぞれの世界が出来ている。 時にはうるさい連中に舌打ちが聞こえることもあるが、ほとんどが我関せずである。 かく言う私も周りの音が雑音にしか聞こえなくてうとうとし始めている。 「キキーキキキーッ」 緊急停車だ。駅のホームに差し掛かっているのにどうしたというのだろう。 しばらく沈黙の空気。キョロキョロし始める乗客。   流れるアナウンス。 「えー、只今、線路内に落ちたお客様の救出作業を行っております。運転の再開までしばらくかかる予定です。御乗車のお客様には大変御迷惑おかけします。尚、~線にて振り替え輸送を行いますの、でお急ぎの方は~線を御利用下さい。えー、…」 繰り返されるアナウンス。反対側のホームに見えたのは意味ありげなブルーシート。 一瞬で生まれる喧騒。 「タタタツタタツタタツタッ…」 「なんか電車が止まったんだけどー。うん、今、~駅。うん、うん、なんか1時間くらいかかるって…」 「すみません、今~駅なんですが電車が止まってしまいまして1時間くらい遅れそうなんですが。はい、はい、すみません。よろしくお願いします。」 「んだよ!っつたく…」 メールの嵐、車内通話、苛立ちの怒声…。混沌と無秩序。 “人1人亡くなってんのに何だこれは…。痛みも悲しみもこれっぽっちもない。知らない人が亡くなっても泣きゃしないし、飛び込みなんて日常茶飯事だし。だけど…。” 見向きもされない人の死に、なんだか切なくなった。 私はそっと心の中で手を合わせる。 そして1時間後、再び電車は走り出した…。
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