第2章 by train

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4.階段 「プシューッ。」 「ご乗車ありがとうございました。」 一気に人で溢れ返るホーム。狭い出口に詰る人々。出られずに押し戻される波。我先にと言わんばかりに掻き分ける。降りる人と乗る人の入り乱れた渦がこの社会の混沌に見える。 「カッカッカッカッカッカッカ…。」 「どどどどどっどどどどっどどどどどどどっ…。」 「カツ、カツ、カツ、カツ。」 見下ろす駅の階段。思ったよりだいぶ長い。シンデレラのようなロマンチックな場所じゃないけど、長い長い階段は地に降り立つためのきざはし。光の出口に向かうトンネル。 駆け下りていった人々は私にはもう見えない。許容量を超えるんじゃないかと思うほどの人たちで溢れ返っている。 ヒールの音が響く。 「…っ、チッ。」 後ろから聞こえた舌打ち。 “ヒールがうるさい。降りるのが遅い。後ろはかなり殺気立ってる…。” “今1人を突き飛ばしたらこの階段は…階段を下りる人々は…。人間ドミノが起きるだろう。老若男女交じり合った人のくずが重なって、怪我人が出て、下手すると死亡者が出て…。醜い人の欲と怒りと悲鳴。現代地獄絵図。” 一瞬浮かび上がった恐ろしい映像。起きそうで起きない現実。絶妙なバランス。不思議な光景。ストレスの塊が転がり、接触し、何が起きるかわからないそんな駅の階段。 そしてその人波は出口を目指す…。
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