第2章 by train

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1.ホーム 風を遮る場所のないホーム。 こんな駅ビルもない駅はホームさえ寂しくて、寒さに身を縮める。 たくさんの人が立ち並ぶ朝。 こんなに近くに人がたくさんいるのに交わされる会話はない。いや、だって知らない人だし。 "今この人に話しかけたらどんな反応が返ってくるだろう…。" その後が気まずいから決してやらないけどね。 でも、昔は道ですれ違った人には挨拶くらいしてたんじゃないかな。 そして人は黙ったまま電車が来るのをじっと待つ。 「ずたたたたたたたたっ。」 階段を駆け下りてきた男の人。私の隣に並んだ。 “おはよ。今日はいつもより遅かったね。” 私はこっそり心の中で挨拶する。 いつも私と同じ時間の電車に乗ってくる彼は、いつもなら私より先にホームで待っている。 だけど、今日はいなかったから休みかなぁなんて思ってたところ。 でもよかった。電車に間に合ったんだね。 決して恋なんか芽生えるはずのない私のヒトリゴト。 だって、その男の人はどこの誰だか知らないような50代のおっさんだから…。 「まもなく~番線に電車が参ります。黄色い線の内側までお下がり下さい。」 電車がホームに滑り込んできた。 この時吹き抜ける風が寒いし乱れるから嫌いだ。 黙ったまま電車を待っていた人たちが、黙って開いたドアから乗り込んでいく。 それに続いて私も乗り込んだ。 静かに徐々にスピードを上げて電車が走り出した。
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