第2章 by train

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2.電車の窓から 田畑が広がっているところは景色が遠くまで見えるから眺めが良くて気持ちが良い。 この時期は田畑に霜が下りて真っ白で、さらに視線を上げれば遠くの送電線も山も見える。 この電車はだんだん高いところに登っていく。視界がさらに広がって家が下の方に見える。 “あ、白い月と富士。凄く綺麗だ…” 気持ちよく晴れた青空に浮かび上がる月と山。朝に輝く月は夜と違って色白で、積もった雪が富士を白く染める。雪化粧とはよく言ったものだ。 “この静かに寄り添う月と富士を1つの枠に納めてみたい。” 澄んだ冬の空気にくっきりと浮かんだ美しい風景は写真に収めるには難しく、絵には到底描けない。そのまま額に納められれば良いのに…。 私は美しい風景を好む。特に自然界そのものの姿が好きだ。 しかし、私の好きな風景の1つは電車が進むにつれてビルの群れに埋もれていく。 やがて、デコボコに切り取られた空しか見えなくなった。 それでも無情に電車は走り続ける。無情な人々を乗せて…。 “同じ景色を見ていた人がこの車内にどれだけいると言うのだろう。” 音も匂いもない無の風が車内に流れている。
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