わからず屋の恋

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あぁームカつく。本当ムカつく。ヘラヘラ笑って胡散臭いことばかり言って、ひとを宥めすかそうと子供扱いしてくるのがとてつもなく腹立だしい。 ムカムカしながら廊下を闊歩していると、少しだけ気分が落ち着いて深々とため息を零した。 渡り廊下を抜け中庭に出て、自販の前に立ってブレザーのポケットを漁る……ない。ズボンのポケット……あった。指先に触れた硬くて丸いものを取り出すと、手の平に百円玉が一枚と五円玉が二枚。くそっ、せめてこれが十円玉だったらジュースが買えたのに。 がっくりとうなだれ肩を落とすと、とぼとぼ足を引きずりベンチへと腰掛けた。 「どうぞ」 ふと傍らから涼しげな声が聞こえ、そのムカつくほど冷静で軽やかな音はつい先程喧嘩別れした男のものだった。 男の手から差し出されたのは俺が買おうと思っていた缶コーヒーで、そんなことまでコイツに知られていたのかと思うと非常に腹立だしくてぷいっと顔を背けた。 「……怒ってる?」 俺のこの状態を見てそう思わないならお前は目が悪すぎる。多分その眼鏡の度は合ってない。 機嫌が悪いですよオーラを振り撒きながら無言を貫けば、やれやれといった様子で肩を落としたソイツが俺の隣に腰を下ろした。 ふわりと香ったのは甘い匂い。決してコイツのものではない匂い。甘い甘い女物の香水。さっき一緒にいた女のものなんだろうな。 眉間に皺が一本増えた。 そんなことにも気付かない横の男にちらりと目をやれば、困った表情で笑いながらもそこにはいつもの嘘っぽい笑顔と違う泣き笑いみたいな顔があった。 「ちゃんと、断ったよ?」 知ってるよ、そんなこと。 物腰やわらかで顔のいいコイツは、しょっちゅうどっかのクラスの女子生徒に告白をされている。 別にコイツがどんな女と付き合おうが知ったこっちゃない。 俺らはただのセフレ、ヤリ友、友達以上恋人未満。 なのにコイツは、毎回こうやって報告してくるのだ、「ちゃんと断った」と。 どうでもいいのに。 俺は別にコイツのことを好きでもなんでもないのだ。ただ、手頃に性欲処理が出来て女よりもめんどくさくなくて気持ちいいから。 .
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