『愛してる』、よりも。

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「あいしてる」 「…………はい?」 それは、朝食での出来事。 焼き鮭の骨を取り除くのに一生懸命になっていた僕は、突然の彼からの告白に、箸で掴んでいたたった今取り除いたばかりの小骨を落とした。 中途半端に箸を浮かしたまま、ぽかんと口を開けて彼を凝視している僕に、彼は――祐輔は、頬を僅かに赤く染めてワカメと豆腐のみそ汁を飲んだ。 「お前が言えって言ったんだろ……昨日」 言って、真っ白な豆腐を口に運んだ祐輔の言葉に、僕は、ふと昨夜のことを思い出す。 週末の金曜になると、祐輔は酒を持って必ず僕の家に来る。 それは、大学に入ってから、特に用事がないときは毎週のように行われていた。 あれは、夏の始まりのころ。 少しばかり酒を飲み過ぎて、借りてきたDVDには結構濃厚な濡れ場があって――僕たちは、親友としての一線を越えた。 不思議と、嫌悪感もないまま、僕たちの夜は続いた。 昨日の夜は――たしかに少し飲みすぎた。 そして、当然のように体を重ねて、一緒に朝を迎えた。 行為中の睦言の記憶は酷く曖昧で、だからこそ、祐輔の言葉にどう返すべきか迷ったのだけれど。 ぼんやりと甘い記憶を思い返していると、次第にその詳細が蘇ってくる。 『ね……、僕のこと、好き?』 『……ん、何……っ』 『言って?』 『何、を……ッ!』 『――あいしてるって、言って?』 うっわぁ………。 思わず、絶句。 なんてことを言ってしまったんだ、僕は。 今まで、祐輔の気持ちをたしかめるような言葉を言ったことも聞いたこともない。 なのに僕は……最中の睦言に紛れてそんなことを言わせようとするなんて。 アルコールの力で決壊したダムが、溢れて、僕の隠し通すはずだった想いを押し出してしまったのだろう。 そのとき僕は、見てわかるほどに青ざめてしまっていたのかもしれない。 祐輔は、赤みを残した顔のまま苦笑すると、食べ終わった食器を持ってキッチンへ行き、習慣になっている食後のコーヒーを準備し始めた。 口を開けたままフリーズしてしまった僕に、祐輔はこともなげに追い打ちをかけた。 「あいしてる」 そんなの僕だって! 20090427 .
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