【1】小さな花屋

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【1】小さな花屋

東京のとある駅前の交差点。 その角に、小さな花屋がありました。 その場所で始まってから、もう50年が経っており、いくらか改装を重ねてはいましたが、その優しい趣(おもむき)はずっと変わらず、たくさんの人達の憩いの店になっていました。 お隣さんは幾度となく変わり、その頃はコンビニでした。 『756円になります。…はい。千円からお預かりします。』 コンビニの若い店員が、慣れない手つきでレジを打つ。 『隣の花屋は、どうなるんかねぇ…。』 『えっ?あっ!』 急に話し掛けられ、慌てた店員がお釣りを落としそうになる。 『おぅ、悪い悪い。新顔じゃ知るわけないよな。』 それを見ていた店主が、奥から出てきた。 この年輩の男は、いつも会社帰りに立ち寄る常連さんでした。 『いつもどうも。いいお婆さんだったのにねぇ。今朝方、急に逝っちまってね。アルバイトの子がいたが、どうなるんでしょうかね~。』 『仕事で滅入った時でも、あの店の花を眺めていると、妙に癒されてね。あの婆さんは、いつも私の気持ちをお見通しの様で、花言葉に例えて、色んなことを教えてくれたもんだ。もうそれもできなくなったと思うと、寂しいもんだね。はぁ…。んじゃおやすみ~。』 『ありがとうございます。お気をつけて。おやすみなさい。』 深いため息をついて、コンビニから出てきてた男は、花屋へ目をやった。 夜の7時を少し過ぎた頃。 普段ならまだ花屋は開いており、明るい店先には、仕事帰りの客が、立ち止まって花を眺めている時間であった。 しかし、今夜の店に明かりはなく、冷たく閉じられたシャッターには、お悔やみの貼り紙がされていた。 男は、軽く手を合わせた。 『婆さん。今までありがとうな。寂しくなるよ。お疲れさま。』 そう言って、単身赴任のアパートへと帰って行く。 通り過ぎる車に、歩道に落ちている花びらが揺れ、何かを惜しむかの様に、少しずつ、店から遠ざかって行った…。
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