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「いやぁ!」
拒絶を示すその声と同時にバチンッと音が響き渡り、頬がジーンと痛む。
ミズキは包帯を手から落とした。
虚しく落ちていく包帯は地面に打ち付けられ、寂しく床を転げていく。
静かな空気の中、ミズキは痛む頬をなぜながら呆然と立ち尽くしていた。
少女は反射的に出た手を引っ込め、今にも消え入りそうなかすれた声で、涙を流しながら何度も何度も謝り続けている。
「ごめんなさい……
ごめんなさい…………
ごめんなさい………………
ごめんなさい……………………」
ミズキはそんな声を聞いて我に返っていた。
だがすぐに下を向き、右手をあごにそえて考えこんでいた。
(どうしてだろう……
僕は何か悪いことしちゃったのかな?)
そんなことを思っていると、ふと少女と目が合う。
何かを感じ取ったのか、その赤い瞳を見て、ミズキはうっすらと涙を浮かべた。
(……そっか……あの目は昔の僕と同じ目なんだ……)
そうしていると、ミズキは何かを思いついたらしく、ニコッと少女に笑いかけた。
だが、その笑顔には少し悲しみが含まれていた。
「ちょっと付いてきてくれないかな?」
「えっ……」
急に言われてオドオドしながら、少女はそれだけ反応してずっと固まったままであった。
だがミズキは、躊躇せず少女の手首辺りをもって走りだす、力強く走っていく。
ミズキの捻った左手首の痛みも、少女を受けとめる時に打ってしまった頭も、今は不思議と痛くはなかった。
それどころか、ミズキの心は不思議な高揚感が芽生えている。
(この気持ちが何なのかなんて……僕には分からないけど、この娘の笑顔を見たい)
そんな思いがただミズキを走らせる。
少女は抵抗するも、力負けしてついていかざるをえなかった。
ミズキは抵抗する少女をつれて、走りながら家の真裏へと入り小さな堤防を越えていく。
風が涼しい夜であった。
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