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「今日も綺麗に舞ってるね。」
少年は誰に言うでもなくそう言って、晴れ渡る空を見上げながら、そっと桜並木を通り抜けた。
しばらく歩き続けた行き先には、黒褐色の木板にカヤブキの屋根、小さく透明な窓ガラス……
そんないくつもの古風の家が並びたつ、田舎風景が目に入ってきた。
しかし少年は顔を陰らせ、地面に向かって悲しそうに覗き込んでいる。
そんな悲しみの表情を浮かべる少年を見てか見らずか、森の動物達は一斉に鳴き始めていた。
木は綺麗なピンクの花を風と共に、少年の元に運んでいく。
家は沢山あるものの、人がいる気配が全くない住宅。
しん……と静まり返っている空気、足跡1つない綺麗な地面。
少年はいつも考えてしまう。
なぜ僕は1人なんだろう? と……
そんなことを考えている内に、頬に冷たく柔らかい感覚を感じた。
それを合図に、フッと我に返ったように両眼を見開く、その目にもう陰りは見えない。
頬に張り付く一枚の花びらを右手で触れると、そこには綺麗な桜が可憐として張り付いている。
「ゴメンね、迷桜(まよいざくら)……
でももう大丈夫だから安心して。」
見開いた両目を桜に移し、そんなことをつぶやいて歩いていく。
少年は、家並木を一直線に歩いていった。
ひたすら真っすぐ進んでいくと、5分もかからない内に、少年は1つの大きな家に着く。
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