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真夜中、サーカスで一つの取り引きが行われる。
片方は娘を連れた母。
もう片方は微笑を浮かべた美しい少年。
少年は、少し幼いその容姿には似合わぬ、歪な格好をしていた。
髪は真っ白く、おでこからは角のようなものが生えていて、顔には所々に紅い染みのできた眼帯。
服装は燕尾服で、質はいいが、返り血のような跡がある。
娘は暫くの間、母と少年の話を聞いていたが、次第につまらなくなったのか、ひとりで歌を唄い始めた。
『~♪』
その歌を唄い終えた頃、二人の話し合いも終わったようで、娘も二人の方へ近づき、母の横に移動した。
「ほら、団長さんに挨拶なさい」
母親は娘に言う。
『えっと、こんにちは!私の名前は―』
「あぁ、いいのよ、名前は言わないで」
『?なんでー?』
疑問に思った娘は母親に聞くが、母親は曖昧に笑うだけで何も答えない。
「それじゃあ、約束の物は明日の朝、団員に届けさせよう」
「えぇ、またお願いしますね」
そう言って、母は出口へ向かう。
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