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『あ、お母さん待って!』
娘が追いかけようとしたその時、団長の後ろの扉から双子の子供が出てきた。
そしてそのまま娘の方へ向かい、行かせないと言うかのように、娘の両腕を捕まえた。
『なんで?離して、お母さんのところに行かせてよ!』
吃驚した娘は、双子に叫んだ。
「ごめんね、ごめんね…」
右腕を掴んだ少女は、少し悲しそうな顔をして目を背ける。
「逃げようとしたって無駄だ、ここからはもう出られない」
左腕を掴んだ少女は悔しそうに言う。
『どういうこと?ねぇ、待ってよ、お母さん、お母さんッ!!』
母は娘の方を一度だけ振り返り、そのままサーカスを出ていった。
混乱して状況が分かっていない娘に団長は話しかけた。
「こんにちは、お嬢さん…僕はこのサーカスの団長のイリヤ。怖がらなくてもいいよ?皆優しくしてくれる筈さ」
団長…イリヤは妖艶に微笑う。
「君はこのサーカスの歌姫として働いてもらう、そして今日から君の名はー、」
「【イクト】だ。」
『イクト…?』
「あぁ、そうだった…ここから逃げ出そうとなんて思わない方がいい。」
思い出したかのようにイリヤは続ける。
「死にたくないのなら、ね?」
そう言い、団長はサーカスの奥へ向かって行く。
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