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『………。』
そっと篠月邸の黒塗りの門に手を添え、2人は立っていた。
門の向こう側には桜の桃色の花弁が舞っていた。
『……行こう。』
黒い門を抜けて中に入ると懐かしい光景が広がっていた。
広々とした屋敷に桜の大木が佇んでいた。
だが一点、見慣れぬものがあった。
大木の下、黒い着物を纏う影がある。
『………!。』
あれは、ひとだ。
《―――あれは……!》
謐と世瑠が息を飲む声が聞こえた。
((誰………?))
世瑠達の声で察するに、恐らく知り合いなのだろう。
じっと見つめながら近付いて行くと、その人が振り返った。
その瞳は。
―――翡翠。
「……お前達は、誰だ……?。」
黒い着物を纏う、白銀の髪をもつそのひとは、トキとツキに向け、そう言い放った。
『篠月時夜と…、篠月華月……。』
そう2人が言って、彼を見つめると、翡翠色の瞳を揺らした。
「…あ…ぁ。お前達が…、……一縷達の……。―――そうか。」
ぽつり。と呟いて、彼は言った。
「私の名は“翡翠”。【篠月翡翠】だ。―――【篠月一縷】の父に当たる」
ざわり。と木々が揺れた。
『初め…まして…。』
「初めまして。」
ふ…。と優しく微笑い、翡翠は2人を優しく撫でた。
彼の着ている着物の袖口には銀糸の刺繍で複雑な模様が施されてあり、それがトキとツキの頭を撫でるたびに優しい輝きを帯びていた。
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