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「やはり此処は落ち着くな……。」
縁側に3人で座り、ぼんやりと桜の大木を眺めていると、翡翠がぽつりと呟いた。
篠月邸には穏やかな空気が流れていて、落ち着ける場所だった。
そんな中で翡翠はそう言って、ほんの少し寂しそうに微笑った。
その瞳は何処か遠くを見ている。
この屋敷の雰囲気は、恐らく翡翠が此処で過ごした時と何も変わっていないのだろう。
――…でも、決定的に何かが変わってしまっていて。
翡翠の両隣に座っていたトキとツキが、遠慮がちに翡翠の袖を握った。その目を覗き込む様にして、見上げていた。
『…寂しい…?』
2人のその言葉に翡翠はふ。と微笑んだ。
何かおかしな事を言っただろうかと2人は微かに眉を寄せるが、翡翠は2人の頭をゆったりと掻き混ぜた。
「どうだろうな…。よく、解らない。」
また呟く様に言って、何かを堪える様に2人の頭をそっと、掻き抱いた。
『…………。』
その行動に特に何の反応も返さず、2人はただ静かに目を伏せ、身を預けた。
――――ゆっくりと時間は過ぎて行く。
「ねぇー!。何で直ぐに攻め込まないのぉー?」
薄暗い部屋に不機嫌さが滲み出た高い少女の声が響く。
むっすりと頬を膨らませ、その調子のまま大いに不満をぶちまけた。
不満をぶちまけられた男は半笑いで答える。
「言ったでしょう。アレは余興だと。」
「だーかーらぁ、何で直ぐに攻め込まないのさぁ!」
「直ぐに攻め込んでも良かったんですけどねぇ…。まだ期では無いと思いまして。――じっくり潰して行くのもまた一興かと。」
少女は納得していない風で、唇を尖らせたまま言う。
「ふーん。まぁ、良いけど。」
そしてパッと瞳を輝かせて少女は男に迫る。
「じゃあさ、ぼく単独行動してもいい?。さっきのやつだってぼく置いてきぼりだったしぃー。」
すると男の後ろに立ち、見守っていた人物が口を挟む。
「おい。さっきから我等がマスターに我が儘ばかり言うな」
その言葉に少女は目を眇めた。
「ぼくがいつ彼の下についたなんて言ったのさ。ぼくはあくまで“協力者”。下につくつもりはない。彼の玩具(ガラクタ)が僕に意見しないでくれるかなぁ?」
「ガラクタとは酷いですね。」
「そう?。それよりさぁ良いでしょ?。リイ。」
男はにこりと笑った。
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