プロローグ

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◇1◇ “まるで別世界だな”  ブロンドに輝く長い髪を靡かせ、青年は車内から見える瓦礫に埋もれた街を眺める。  道路と呼べる程の道ではなく“元は道路”だったというだけの道を走る装甲車の中で、青年は道路の定義を根本から考えていた。  青年の左目を覆った包帯には、まだ出来たばかりの傷なのか血液が滲んでいる。  とりわけ青年はそれを意識している様子は無く、それよりも東京都の都市機能の中心部である新宿の変わり果てた姿に意識を集中していた。 「酷いもんだろ?まるで戦場さ」  腰まで伸びた長い髪をポニーテールにし、タバコをくわえ運転する女性は、サングラス越しに青年を見る。 「戦争なら少しは良識というものは存在する」  病院らしき建物や学校という学校の建物全てが瓦礫に姿を変えていた。 「そんなことは見ればわかる。これはあからさまにテロだね」  青年はまさにその通りだなと同意し頷くも、決して女性のように苦笑いなど浮かべていられなかった。  二人の乗る装甲車がたどり着いた先は、崩壊したニューヨークマンハッタン島にある、ルーファウスカンパニービルで、既に外観だけとどめているだけにすぎなかった。 「さてと、ついたよ」  女性はそう言うって足元のサイドブレーキを引いて、装甲車から降りると、青年も合わせて車から降りた。  降りる際に白いスーツの上着をとり肩に掛けた青年は、女性に連れられビルの中に入る。  建物の中は昼間なのに薄暗く、灯りはろうそくによって保たれていた。このビルの所有者でもある青年は、ビルが自分の記憶とかけ離れた姿に変わっていたことに、改めて悲しみの表情を浮かべていた。  床に並べられた薄いシーツに横たわる怪我人達に、慌てふためく看護士や医師達と、手伝いの一般人が駆け回っている。 「殆どの病院の建物は使いものにならなくてね。医療用機材も寄せ集めさ」  女性から現状の説明を受けながら、青年は今一度周りを一瞥して口を開く。 「奴らが我々の予想を遥かに上回る戦力を有しているのがわかった」 「それだけじゃない。緻密な頭脳戦が得意でもあるのさ」  認めたくないが女性の言う通りだった。
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