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「っ先輩こそ何で此処に?」
恥ずかしさを隠すようにして滝夜叉丸は私を見つめた。そのふいの仕種に心臓がリズムを乱す。
……あれ?今の鼓動は…
少し考え、すぐに振り払うように言葉を返した。
「…あ、私はー…迷って…」
「え?一本道でしたけど…」
「は?」
ちょっと…。今、なんて?
なら、自分は無意味に森の中で何日も過ごしていたというのか。
急に今までの決死の苦労が茶番のように思えてきて、笑みが込み上げてくる。
「なんだ…ははっ」
「先輩…まさか…」
滝夜叉丸に訝しげに眉を寄せられ、無意味に明るい笑みを見せた。
「ああ、とんだ失態だな。忍者失格だ」
豪快に笑って頭を掻くと、最初はぽかんとしていた滝夜叉丸も、くすりと小さく笑った。
「しょうがないですよ。この森同じ景色が多いですから」
「年下に慰められるようじゃ私もまだまだだな」
「ですね」
なにもかもがおかしくて、二人でしばらく笑い合う。
しかし、滝夜叉丸の笑顔に更に鼓動が速まったりもした。
ふとさっきまでの悩みを思い出す。
溜まっているんだったな…。
それに考えがいってしまうと、もうその事しか考えられなくなってしまった。
加えて目の前に滝夜叉丸の眩しい笑顔。
…据え膳…?
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