落/深森

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 滝夜叉丸の嬌声が嫌に耳に響く。   悩ましいその声は、この行為自体を現実か夢かさえ分からなくする。     「い…ッあ…先輩…ッ」      必死にしがみついて涙を流す姿が、とても興奮した。   ふと考える。 その涙は、どっちの涙なんだ?   もし嫌で流してるのだったら…と考えると胸が痛んだ。    って…今の私が言える事じゃないか…。        だが、私は少し前から滝夜叉丸にそういう恋愛感情を抱いていた。   さらさらの髪、美人な顔立ち、そして自身たっぷりの物言いが、逆に私を清々しくさせた。   それが恋愛感情だと気づいたのは最近だが。     だからこの森に彼が来たのは、棚から牡丹餅のような幸運だった。     なし崩しにこういう行為は出来たし、ついでに告白も出来るだろうか…。   ぎゅ、と抱きしめると、ごく自然に口にしてみる。       「滝夜叉丸、好き…」      その言葉に、滝夜叉丸は潤んだ声で答えてくれた。     「私も…好き、ですッ」   「…」      え。     「え?」      思わず抽挿している動きを止め、相手を見る。  今、なんて…?     「先輩…っ先輩…好き…」   「…ホント、か?」     自分から言っておいて、キョトンとして聞き返してしまった。 しかし滝夜叉丸は私の声が聞こえないのか、一生懸命にしがみついてくる。 「先輩…先輩ッ…」   「…滝…」      必死に私の名前を呼ぶ滝夜叉丸に、胸が高鳴った。    たとえ雰囲気に流されただけでも、そう言ってくれる事が嬉しくて。    少しでも隙間を作りたくなくて、滝夜叉丸の身体をかき抱いた。
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