落/深森

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          「さぁ、こっちですよ」      滝夜叉丸に手を引かれながら、森の中を歩いていく。 私はと言うと、いたたまれない気持ちと恥ずかしさと、さっきの滝夜叉丸の言葉が気になってしまって、かと言ってかける言葉が見つからず、さっきから無言で歩き続けていた。     「…なんか喋って下さいよ」      しばらくして、さっきから手を引いている滝夜叉丸が静かに口を開いた。     「…ごめん」   「そうじゃなくてっ」   「へ?」      謝る事しか出来なくてぽつりとそう呟くと、滝夜叉丸がじれったいように声を荒げる。     「…嘘とか言わないで下さいよ」      滝夜叉丸は立ち止まると、珍しく弱気な声で俯いた。     「私…は、ずっと好き…でした」   「…」      夢を見てるんだろうか。 こちらを振り向いてはにかむ滝夜叉丸に木漏れ日が当たって、現実味が薄れる。     「…嘘じゃないですよね?」      不安そうに見上げられて、言葉に詰まる。    さっきは勢いで言ってしまったけど、今想いを告げてしまってもいいのだろうか。     「…先輩?」 「…ごめん、もうちょっと…時間くれないか」   「…先輩…」      私が言う言葉じゃないけど。     「お前が困る事、したくないんだ…」   「っ私は…、困ったりなんかしません!」      滝夜叉丸はそう言って、私に抱き着いてきた。 温もりが一気に私を現実に引き戻す。     「滝夜叉丸…」   「先輩が何言っても…困りませんから…」      それは一種の誘惑なのか。 甘い囁きに、頭がクラクラした。    前言撤回だ。    滝夜叉丸をゆっくり抱きしめると、耳元で想いを告げた。    嬉しそうに顔を赤らめる相手を見て、自然と笑みがこぼれる。      これからゆっくり、二人の時間を過ごして行こう、なんて変な事を考えてしまった。             End.
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