落/我が儘

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 貴方はいつも輝いているから。 オレなんか手の届かない場所に居るんだろう。 それはこれからも、きっと同じ。 「清八っ」 「若旦那!帰ってきたんですか?」 「うん、もう休みだからね」  若旦那に笑顔で手を振られて名前を呼ばれると、オレは胸が暖かくなるような気がした。 オレは、もうずっと若旦那の事を好いていた。 こんな子供に、と笑われるかもしれない。 だけど、若旦那のたまに見せる頼もしい表情とか、弱気になった顔とかが全部、オレには輝いて見える。 オレみたいな馬借を好いてくれる筈ないと分かってるけど、それでもたまに少しだけ、夢を見させて欲しくなる。 「若旦那…まだ馬借になる気はないですか?」 「え?あー…うん。やっぱり、ね」 「そうですね…。勉強、頑張って下さい」 「うん。ありがとう清八」  若旦那の顔がまた少し大人っぽくなったのを見て、オレは眩しくて目を細めた。  その夜、皆に楽しそうに忍術学園の話をする若旦那を横目に、オレは一人外へ出た。 「月が…綺麗だなぁー…」  はぁ、と無意識にため息をつく。と、後ろから肩を叩かれた。 驚いて振り返ると、若旦那がいつもの笑顔で立っていた。
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