落/我が儘

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「ごめんな清八、歓迎会なんてしなくていいって言ったのに」 「あ、いえ…」 「父ちゃんも父ちゃんで、どんどん人呼んでくるし」  オレの隣に立って同じように空を見上げた若旦那は、そう言って苦笑する。 宴が嫌いで外にきた訳じゃないのに、と言ってしまいたかったけど、言葉が詰まって上手く声が出せなかった。 若旦那がオレを気にかけてくれているという事実だけで、オレは心臓がはち切れそうに暴れていた。  女じゃあるまいし、とまたため息をつくと若旦那はぱっとオレを見て不審そうな顔をした。 「こらっため息つくと幸せが逃げるぞ?」 「幸せ、ですか」 「あーっ笑ったな?ホントなんだから!」 「…確かに、今オレ幸せです。若旦那といられて」  自嘲気味にそう笑うと、若旦那は眉を下げてオレの顔を見る。 若旦那の顔を見下ろして、オレは笑顔を浮かべた。 「ため息つくのやめたら、若旦那は帰りませんか?」  我ながら何という我が儘を言っているんだ、と思う。 でも、若旦那が居る事がオレの幸せなんだから。 離れていた時間が惜しい、もっと側に居たいと願うのは我が儘な事なのに、オレは気を使う事も忘れてそう口にしていた。  若旦那は目を見開いてオレをじぃっと見つめた後、オレの着物の裾を掴んだ。 「帰らないのは無理だけど。…せめて此処に居る時間だけ、清八といてあげる」 「…え」 「僕と居る事が清八の幸せなら、僕はそうしてあげたいな。駄目?」  にっこり笑って見上げてくる若旦那に、オレは心臓を打ち抜かれたように固まってしまった。 同時に、鼻の奥がつんとして視界がぼやけた。  きっと若旦那は、オレの気持ちに気付いてはいないだろう。 だけどそう言ってくれただけで、オレは十分幸せだった。 泣きそうになりながら、オレは精一杯の笑顔で答えた。 「駄目な訳ないです…。よろしくお願いしますね、若旦那」 End. ----------------- やっと書けました団清!! 清八乙女ですいません。生足歳の差カップルはテンソン上がります←
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