オ/瞬間ボイス

2/3
前へ
/50ページ
次へ
 奴に抱きたい、と言われたのが一ヶ月前。 奴を好きだと気付いたのが一週間前。 …それから。 「…え、松田休みですか?」 「うん。何か問題?」 「はっ!?いいえ全然寧ろ好都合ですが!!」 「…何故…?」  それから一週間。奴は一度もバイトに顔を見せていない。 もちろん一週間全てがバイトな訳じゃないけど、オレとシフトが被る時は確実に休みを貰っている。  あいつの事を好きだって気付いたはいいけど、これじゃあ言うタイミングがないじゃんか…。 …まぁ、まだ言うつもりないけど…。  それでも気付いたタイミングとぴったり重なると、なんだかとても心地が悪い。 「て、店長…あいつ辞めた訳じゃないですよね?」 「うん、何か忙しいみたい」 「忙しい…?」 「大学があるらしくて」 「…はぁ…」  そういえばあいつ大学生だったな…。 今までは忙しくなかったのかよ、とか、今の時期いきなり忙しいのかよ、とか…言ってやりたかったけど、今オレの目の前にいるのは松田ではなく店長なので、オレはそれらの言葉をぐっと飲み込んだ。  それから何事もなく一日が過ぎ…。 バイトを終えてから何気なく携帯を弄っていると、手が自然と電話帳を開いていた。指が松田という文字を探して動いた。 松田を見付けると、通話ボタンを押した。 ……。 はっ!!  我に帰ったのは通話口を耳に当てた直後だった。 オレ、何で無意識に電話を!?  切ろうと手を持ち替えた途端、電子音が途切れた。 『…メグミさん?』
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加