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汗鬼
第二章 汗鬼
午後5時の青山墓地は夕方の交通渋滞を避けるための礼司の昼寝の時間だった。
コツコツ、助手席の窓が叩かれた
「ん?魔美か?」
目を開けて音の方向を見ても誰もいなかった
礼司が倒したシートを起こすと車の外にぼんやりと見覚えのある老人の姿が見えた
「おじいさんなんの用ですか?」
「よかった、私が見えますね」
「ええ、まあ」
「実はお願いがありまして」
「ちょっと待ってくれ、霊の相談に乗ってもね、金にならんし」
「いやいや、私はまだ生きている」
「おいおい、また生霊か」礼司はつぶやいた
「今日の夜12時までに信濃町の方へ来てくれないか」
「はい」
「その時あんたの経費は出そう」
「それで用件は?」
「私の命は今日か明日だ」
「それで」
「それが私の娘達の相続でトラブルが起きている」
「遺書でも書けばいいだろう」
「それがその遺書が、熱海にある私のマンション、パークマンション823号室の文箱に入っていてな、その文箱が明日売られてしまう」
「あはは、それなら娘に言えばいいじゃないか」
「それは無理だ、私は今危篤だ」
「な、なんで、それで」
「その遺書を持ってきて欲しい」
「鍵は?」
「暗証番号だから大丈夫だ」
「何番ですか?」
「32194だ」
「みにいくよか、憶えやすい」
「頼みましたよ」そう言って老人は消えた
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