3人が本棚に入れています
本棚に追加
ふと視線を感じた。
感じたと言った所で、ここは二丁目で、俺はナンパ待ちの身分、見られてナンボだ。が、その視線は俺が待ち望む様な熱い秋波では無く、何と無くねちっこい、爬虫類を思わせる冷ややかで克つ体中に纏わり付く様に、そう観察されている様な視線。
(マズイなぁ…何かヤバイのに目ぇ付けられたかも)
くしくもここは出会い系のバー。こっちも出会いを求めているのにあっちは駄目なんて理屈は無いだろう。ただ単に俺の生理的に受け付けて無いからだなんて。
ここはさっさと店を出て、顔見知りばかりのバーにしけこもう。そう考えたら善は急げとばかりにコートをクロークから受け取り、未だ出入口辺りから動こうとしない爬虫類男から出来るだけ離れて出口に駆け込む。と、敵の動きが早かった。スッと俺の前に立ち塞がった。
「今日はもう帰るの?テルさん」
「えっ…」
一瞬何を言われてるのか本気で分からなかった。
「いつもは後2~3時間はここで相手探してホテルにしけこむでしょう?」
「???!」
(こいつストーカー!?)
いつの間にか握られてた腕を振り切り反射的に逃げようと階段を駆け上って行こうとするが、この爬虫類男は細身に見えるのにびくともしない。
「そんなに怯え無くても良いじゃないですか」
怯えるだろ普通!
しかし店内のBGMがデカイのと照明が落とされて薄暗いので、こんな所で揉めているなんて誰にも気付いて貰えない。
(ど、どうしよう?どうしたら良い!?)
パニくって頭が真っ白になっていたら、背後から抱き込む様に固い何かが爬虫類男の拘束を断ち切ってくれた。
(助かった…のか?)
「ウザイんだよネチネチと。テルは俺のモンなんだよ、分かったらとっとと離れろキモいんだよバァーカ」
言ってる事はかなり酷いが、その声を聞いてやっぱり助かったのだと聡って一気に体中の筋肉が緩んだ。
「ほら、帰るぞテル」
「あ…うん」
それで初めて庇ってくれた人を見る事が出来た。
「???っ!」
超好み!!
こんな人が俺を助けてくれただなんて…信じられない。地下クラブの篭った空気から開放されて、冷静になって気が付いた。助けてくれた人ここでお別れなんだよな。
「参ったな」
俺より頭半分背が高い彼が呟いた。
「俺、ずっとお前の事見てたんだよ」
神様…こんな幸せってあるの…?
最初のコメントを投稿しよう!