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「……―剣術道場…?」
「あぁ。広いだろ?」
自慢気に話すと私達は小さな裏口から屋敷に入る。
屋敷に入ってすぐ聞こえたのは竹刀がぶつかり合う音。
私は半ば強制的に彼らに連れて来られた。
丘から街までは少し歩くため、簡単な自己紹介をしてもらった。
……別にしてくれなんて頼んでないんだけど。
可愛らしい女の子はたま。
三つになったばかりなのに驚く程しっかりしている。
彼女の父親の近藤勇。
京の街を警護している剣喀集団“新選組”の局長だとか。
そして無口で無表情で細身の体の彼は斎藤一。
「内海さくらと言ったか?」
「………はい…」
「新選組の事はどこまで知っている?」
どこまで?
どこまでって…
「何も…知りません…」
綺麗に手入れされた庭に目を移しながらそう言った。
風が強くなって来て肌を刺すように寒く、かじかんで来る。
軽く自分を覆うようにかぶっている肩掛けは荒々しく揺れる。
肩掛けの中の茶色の髪は、丸く小さくまとめて結っといたから見える心配はない。
……この人達が幕府の人間である以上…異人の私は排除したいはず…
「そうか…知らないか。こりゃまだまだ働きが足りないのかな?」
近藤はクックと肩を鳴らして笑う
その横にはたまちゃんが不思議そうに見ていた。
「はじめ、悪いんだが歩さん呼んで来て。」
「……わかりました。」
「たまは歳を呼んで来て?」
「はーい!」
はじめと呼ばれた男は私の横を通る時、目を合わせて何も言わず行ってしまった。
「………―」
「気にするな。あいつは初対面のヤツには見境なしに厳しいから。
寒いだろう?それに腕も診なくちゃいけない。部屋に案内するよ。」
たまちゃん同様、屈託のない笑顔で私を屋敷の奥に促した。
………気は…緩められない…
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