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薬草のツンとした匂いが、柔らかい匂いに変わる。
「……―これ…」
「ふふっ…ええ匂いやろ?」
その問いに首を縦にこくんとうなづく。
歩さんが楽しそうに微笑んで、今度は手慣れた手つきで私の痣を濡らした布を当てた。
「お香を焚いたんよ。この薬草、むっちゃ臭いし。」
「……この匂いは…?」
「あら、お香に興味あるん?」
「……―興味まではいかないですが…お香を焚くのは好きです…」
「女の子はええ匂いが好きやもんね!」
「歩さんがお香を始めたのは歳に女らしい事をしてみろって言われたからだろ。」
「黙らっしゃい!!」
お茶を飲みながら呟いた近藤さんに、歩さんは容赦なく怒鳴り付ける。
優しそうに見えて…
……二面性有り…?
「これは香梅花。高まった緊張や神経を落ち着かせる効力があるんよ。」
「……へぇ、お香にも効力があるんだ。」
「当たり前やろ!」
私は右腕を歩さんに任せたまま瞳を閉じた。
優しい鼻を掠める淡い匂い。
ほんのり刺激する梅の匂いが、本当に身体中の力が抜けて来た。
……やだ…
眠く…なって来ちゃった…
そういえば、最後に家の中で囲炉裏を囲んだのはいつだったかな…?
「……さ……らちゃ…?」
寝てはダメ…この人達が…安全とはわからないのに…
でも…たまちゃんも歩さんも…近藤さんも暖かい瞳…
始めて…かもしれない…
目を合わせて微笑んでくれた人…
そこで私の意識は途絶えた。
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