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「……ご馳走様でした…」
「お粗末様。」
「ごちそーさまでした!!」
近藤さんの言った通り、料理は美味しくて、部屋にはたまちゃんと歩さんが来て一緒に食事をしている。
にぎやかな部屋。
暖かいご飯。
明るい笑顔。
何もかも初めてと言っていいほど私には贅沢なものだった。
「さて。たまちゃん、うちはこれを片して来るさかいお風呂入ってきいや」
「ヤダ!!」
「何言うてんの。」
「さくらお姉ちゃんと入る!!」
「………私…?」
「あかん。さくらちゃんは怪我人やから風呂は入れんのや。」
「いやぁ…」
「まだ一人でお風呂に入れんの?
たまちゃんもう三つやろ?」
「うぅ…」
お膳を片手に持ちたまちゃんの頭を撫でる歩さん。
この子の母親の事は知らないが、歩さんが母親なんじゃないかって思うくらい優しい目をしている。
「お父はんと入って来ればええやろ?」
「………いや」
「早くも反抗期?」
歩さんは私を見て苦笑する。
「しゃあない、うちと入ろう。片付けはあとにして、先に入っちゃお。」
「うん!!」
「ごめんな、さくらちゃん。
風呂から上がったらまた来るで待ってて?」
「あ……お構い無く、ごゆっくりして来て下さい。」
「ありがとう」
口元が優しく歪んで笑って部屋を出て行った歩さんとたまちゃん。
ごく普通の家族のやり取り。
私はそれらをただ見ているだけなのに、なぜこんなにも息苦しいのだろう…
師走の冷たい風が、暖かかった部屋の温度を奪った気がした。
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