新選組

9/21
前へ
/182ページ
次へ
「……ご馳走様でした…」 「お粗末様。」 「ごちそーさまでした!!」 近藤さんの言った通り、料理は美味しくて、部屋にはたまちゃんと歩さんが来て一緒に食事をしている。 にぎやかな部屋。 暖かいご飯。 明るい笑顔。 何もかも初めてと言っていいほど私には贅沢なものだった。 「さて。たまちゃん、うちはこれを片して来るさかいお風呂入ってきいや」 「ヤダ!!」 「何言うてんの。」 「さくらお姉ちゃんと入る!!」 「………私…?」 「あかん。さくらちゃんは怪我人やから風呂は入れんのや。」 「いやぁ…」 「まだ一人でお風呂に入れんの? たまちゃんもう三つやろ?」 「うぅ…」 お膳を片手に持ちたまちゃんの頭を撫でる歩さん。 この子の母親の事は知らないが、歩さんが母親なんじゃないかって思うくらい優しい目をしている。 「お父はんと入って来ればええやろ?」 「………いや」 「早くも反抗期?」 歩さんは私を見て苦笑する。 「しゃあない、うちと入ろう。片付けはあとにして、先に入っちゃお。」 「うん!!」 「ごめんな、さくらちゃん。 風呂から上がったらまた来るで待ってて?」 「あ……お構い無く、ごゆっくりして来て下さい。」 「ありがとう」 口元が優しく歪んで笑って部屋を出て行った歩さんとたまちゃん。 ごく普通の家族のやり取り。 私はそれらをただ見ているだけなのに、なぜこんなにも息苦しいのだろう… 師走の冷たい風が、暖かかった部屋の温度を奪った気がした。 ,
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2518人が本棚に入れています
本棚に追加